生産者が“自分の娘のように愛したトマトを完熟してから収穫する”の意味を込めた「うれっ娘トマト」。地元の特産品として商標登録を取得した独自のブランドトマトです。「麗容」という品種は、姿形も良く、酸味と甘味のバランスが良い優良品種です。完熟してから採取するので旨味が凝縮。そのままでも、加熱しても、ジュースにしても味を損ないません。
高崎市木部町のJAたかさきトマト選果場では、毎年12月中旬から7月上旬まで、「うれっ娘トマト」の選果作業が行われ活気に満ち溢れます。木部町周辺では昭和40年台から養蚕の合間に露地物のトマト栽培が行われてきましたが、ガラスハウス団地が完成し、冬場の寒暖の差を利用したトマトのハウス栽培が始まりました。昭和53年、同選果場がオープン。それまで夜鍋仕事だった選果と箱詰めが共同で行われるようになり、各農家は栽培規模を拡大。土づくりに力を入れ、有機肥料と化成肥料をうまく使いながら、味の良いトマト作りに励んでいます。現在、農家20数軒のトマトが運び込まれ、大きさ、形ごとに分類、出荷されていきます。直売所には常連さん達の列ができ朝早くから賑わいます。
「ここのトマトを食べると他のが食べられなくなる」と言うお客さんの声に納得。新鮮で甘いうれっ娘トマトは高崎の自慢です。
高崎市里見地区は榛名山のすそ野に広がる、群馬県でも指折りの果物生産地。国道406号線は通称「くだもの街道」と呼ばれ、その沿道を中心に7月上旬からブルーベリー、桃、プラム、8月上旬からは「里見梨」の出番となります。幸水や豊水、廿世紀など、20~30種類もの梨が時期をずらして年末まで味わえるのがこの街道ならでは。甘味や酸味、歯ごたえなど異なる種類の梨を味見し、自分好みを見つけるのも楽しみ。下里見限定種の「はるな」は1つが450~500gとその大きさが目を引きます。甘みとさっぱり感、きめ細かな舌触りとみずみずしさで人気となっています。
くだもの街道の魅力は、多品種の果物を長く楽しめること。果物狩りができる農園も多く、県内外から観光客が訪れて夏休みなど家族連れで賑わいます。
また、里見地区では、地元で採れたフルーツをジャムやジェラート、菓子などに加工している人も多く、産地ならではのスイーツは格別です。
榛名山麓の肥沃な大地が広がる高崎市国府地域(旧群馬町)。榛名山の火山灰土は砂と粘土がほどよく混ざり合い、水分や空気を含み、野菜作りに適しています。ここで育った滋味豊かな野菜は味が濃く、野菜本来の甘みが備わり、伝統野菜の国府(こくふ)白菜、国分(こくぶ)人参はその代表格。毎年11月下旬から3月にかけて出荷されます。
国分人参は、旧国府村西国分地域が名称の由来です。長さ50~60センチ。大正時代にフランスから伝わった長い人参の種を地域の農家が改良、昭和30年代頃まで、この地域の生産農家は500戸を超えていました。市場の5~6割をこの種が占め、種子は全国に販売されました。しかし、家庭で扱いやすい短根人参が主流となると、国分人参の生産農家は激減、いつしか“幻”となったのです。
農事組合法人「国府野菜本舗」は、地元野菜を加工販売する団体として地元農家の主婦らで組織されました。同法人は、国府で唯一国分人参を生産していた農家に栽培方法を学び、今では2.5haの畑で人参や白菜、長ネギや玉ネギなど一年を通し、様々な野菜を栽培。高崎市引間町の国府野菜本舗で新鮮野菜やお惣菜、お弁当などを販売しています。
群馬の梅の収穫量は、和歌山に次いで全国2位。東日本最大の生産地であり、そのうち75%は高崎(箕郷・榛名地区)で収穫されます。梅は日光を好むため、剪定をしっかりすることで消毒を減らし、減農薬、有機栽培に努める生産者も少なくありません。
毎年五月下旬から梅の選果作業が始まり、JAはぐくみは出荷最盛期を迎えます。高崎の梅は白加賀を中心に加工梅が主体、青梅を市場や業者に卸し、梅ジュースや梅酒、カリカリ梅に加工し、その販売網は全国に広がります。また、群馬県では、高崎、安中、JA、関係企業、生産者らによる10年計画の《梅プロジェクト》をスタートさせました。“夏休みの宿題に梅ジュース作りをし”梅を生活に取り入れてもらおう”と食育への施策などに取り組み、地元の梅を生涯にわたって親しんでもらう土壌を育もうという取り組みです。
古来、花といえば梅でした。長い歴史のなかで梅は日本人の心に寄り添ってきたのです。
難攻不落の上州箕輪城、城主・長野業盛の次のような辞世の句が残っています。
《春風に梅も桜も散り果てて 名のみぞ残る箕輪の山里(業盛)》
父・長野業正の病死後、一度は陥落を凌ぐも一族郎党と共に自害した22歳の業盛。その一子、二歳の亀寿丸は家臣に守られ極楽院に匿われます。そこを訪れた武田信玄は、梅の枝の鞭を逆さに挿し“逆さ梅”とします。これは「亀寿丸を仏の道に入らせよ」と暗に示したもの。亀寿丸は後に出家、2代目院主となりました。今も伝説の逆さ梅は、毎年下向きに八重の花を咲かせるそうです。その姿は悲しみの業盛、あるいは亀寿丸でしょうか。
箕郷の伝説を大切にする生産者達。こだわりの梅干しやジャム、飲料などの開発に努める次世代の後継者達の活躍が楽しみです。